証券アナリストの独り言
新会社法と敵対的買収
明治32年に制定された現行商法が、106年ぶりに抜本改正されました。「会社」に関する複数の法律を一つにまとめ、「会社法」という独立した法典として制定され、平成18年5月に施行される予定となっています。この新「会社法」のなかで、いわゆる「合併対価の柔軟化」(現金合併や現金を使わない三角合併が可能になること)については、その施行が平成19年まで、1年延長されることになりました。
なぜその施行が1年遅れるのでしょうか。それは一言で言うと、「敵対的買収」に対する日本の経済界、政界、当局等のアレルギー反応にあると思われます。ここ1〜2年、米系ファンドによる日本企業に対する敵対的TOB(株式公開買い付け)が急増しています。またニッポン放送株をめぐるライブドア―フジテレビ騒動では、やれ「ポイズンピル」だ「ホワイトナイト」だなどというM&Aの専門用語がワイドショーのなかで盛んに飛び交い、「資本の論理」がお茶の間まで一気に浸透しました。さらに「村上ファンド」にいたっては、その一挙一動が国民的関心事となり毎日のように新聞、テレビを賑わしています。こうして「敵対的買収」は、経済界のみならず、司法、立法、行政当局までをも巻き込み、混乱するなかで、国内に「外資脅威論」が一気に巻き起こったのです。「合併対価の柔軟化」は日本企業が外国に行って外国企業を買う場合にも従来に比べより買いやすいシステムなのですが、外資による敵対的買収に対するアレルギーのほうがその利便性を上回ったのであります。
また、これは重要なことと思われますが、今回の会社法制の大改正に際して、「敵対的買収」の議論はほとんどされていません。新会社法が「敵対的買収」について十分に対応していないと、あとは行政の判断とか司法等の法解釈の問題になってきます。例えば、この敵対的TOBは合法か否かとか、このポイズンピルは経営陣の保身なのか企業価値を高める手段なのかを裁判所が判断するようになるということです。
我が国は現在、1980年代半ばの米国が経験したような、「敵対的買収」が主流となる本格的M&A時代の入り口に立っています。しかし、それをスムーズに受け入れ、企業価値を増大させていくような仕組みが、法的インフラにおいても十分に整っているとは残念ながらまだ言えないのではないでしょうか。このような状況下では、「混乱=収益機会」ととらえるマネーがマーケットに大挙流入し、より混乱することも想像に難くありません。アレルギー克服のためにも、このインフラをしっかり整備し、法の解釈をいかに迅速かつ合理的にしていくかが喫緊の課題になっています。残された時間は少ないし泥縄式は混乱に拍車を掛けるだけだと思われます。
